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凝縮系理論 / 古賀研究室

研究テーマ

ハイパーユニフォームと乱れ

物質の性質は、構成要素の空間配置、すなわち秩序や乱れのあり方に大きく依存します。従来、結晶は長距離秩序をもつ系、ランダム系は大きな密度ゆらぎをもつ系として区別されてきました。ハイパーユニフォームは、点配置をその長距離ゆらぎの性質によって分類する概念であり、大きなスケールにおいて粒子数のゆらぎが通常のランダム系よりも強く抑制されている状態を指します。この概念自体は、構造が秩序的か乱雑かを直接規定するものではなく、結晶のような周期構造も、適切な意味でハイパーユニフォームに分類されます。特に、長距離秩序を持たないにもかかわらず密度ゆらぎが抑制された「乱れたハイパーユニフォーム構造」は、従来の秩序/無秩序の二分法を超える新しい物質設計の枠組みとして注目されています。私たちは、このような構造が量子多体系や強相関電子系にどのような新しい物理をもたらすのかを理論的に探究しています。

非平衡開放系における量子多体物理

極低温に冷却された原子集団(冷却原子系)による実験技術の発展は、系のパラメータの自在な制御に加え、散逸の制御や1原子レベルでの観測をも可能にしました。例えば、Yb原子系において、光会合と呼ばれる技術を用いて粒子ロスを制御することが可能であり、開放系特有の非平衡相転移等が報告されています。また、観測によって量子系の情報を取り出す際、観測者は環境としての役割を果たし、観測の反作用は量子状態に無視できない変化を引き起こします。特に、冷却原子系のような極限の解像度の下での物理では、観測による反作用の影響が顕著となります。これらは、孤立系の物理の枠組みを超え、環境との相互作用が主要な役割を果たす開放系の物理を探索する舞台が開かれたということを意味し、量子情報・物性物理・統計力学等幅広い分野と関連する近年のホットトピックスの一つを形成しています。

準結晶

1984年に結晶でもアモルファスでもない準結晶が、急冷したAl-Mn合金において発見され、準結晶が盛んに研究されています。この系の原子は規則的に配列しますが、周期性を持たないため、通常の結晶にはない5回, 8回, 10回, 12回対称性が許されており、その興味深い準周期構造が数理的にも注目されています。2012年に希土類元素Ybを含む準結晶Au-Al-Ybが合成されました。この系においては、中間価数をもつYbが、極低温における比熱や帯磁率における異常(量子臨界現象)に対して重要な役割を果たしていることが示唆されており、強相関電子系における準周期性が最近のホットトピックスのひとつとなっています。

キタエフ模型と量子スピン液体

磁性体における磁性の起源は電子のスピンであり,その性質を理解するためには,電子のスピンの間の相互作用を理解することが必要です。これまで,様々なスピン間の相互作用を記述する模型が提案され,磁性現象の説明に成功してきました。一方で,スピンを量子力学的に扱うと,その多体模型は解くことが困難な場合も多く,強い量子揺らぎを持つ磁性体の研究は,現在もなお,最前線の研究課題として位置づけられています。A. Kitaevによって2006年に導入されたキタエフ模型は,量子スピン模型の1つであり,非常にシンプルな模型にも関わらず,最近,磁性体を扱う固体物理の研究分野のみならず,統計基礎論,量子情報などの様々な分野で注目を浴びています。固体物理の視点から見たとき,最も重要な特徴は,キタエフ模型が量子スピン液体を基底状態に持つことです。量子スピン液体は,1973年にP. W. Andersonによって液体ヘリウムのように強い量子ゆらぎによって絶対零度まで固化(秩序化)が妨げられた状態からの類推として提唱されました。それ以降,この状態は磁性体研究において最も重要な研究対象の1つであり続けています。また,強いスピン軌道相互作用を持つイリジウム酸化物では,キタエフ模型がその磁性を記述できると考えられています。キタエフ模型の研究が,量子スピン液体や強いスピン軌道相互作用を持つ磁性体の性質の解明につながるものとして,注目されています。

冷却原子系と光格子系

最近、研究の進展が著しい系に冷却原子系があります。この系においては、閉じ込めポテンシャルの大きさ・形状、ならびに粒子の統計性(フェルミオン、ボゾン)だけではなく、冷却原子間相互作用の大きさも実験的に制御することができます。実際、理論的に予言されていた超流動状態におけるBEC-BCSクロスオーバーが、冷却K原子系において観測されています。また、対向するレーザーを用いて周期ポテンシャルを作り出すことにより、冷却原子を周期系に閉じ込めた光格子系も形成され、欠陥のない理想的な格子系として注目されています。この格子中においては、超流動状態、モット絶縁体状態などのよく知られた量子状態に加えて、超固体状態の可能性も指摘されており、冷却原子系に関する研究が広がりを見せています。

軌道自由度を持つ強相関電子系

遷移金属酸化物に代表されるd電子系においては、縮退した軌道波動関数の空間依存性により、様々なタイプの磁気秩序、軌道秩序、超伝導等の興味深い物性を示すことが知られています。典型例として、超伝導が実現するルテニウム酸化物Sr2RuO4があります。この系においては、SrをCaに置換することにより超伝導状態が消失し、軌道に依存した特異な振る舞いが現れます。一次元的な構造をもつ軌道においては、Caドープとともにバンド幅が減少し、量子臨界点において金属絶縁体転移が実現します。一方、二次元的な構造をもつ軌道の電子は金属的な挙動を示します。このことは、通常の金属絶縁体転移とは異なり、縮退軌道のうちある特別な軌道のみが転移を起こす軌道依存モット転移の存在を示唆しています。この軌道依存モット転移の性質については、実験的研究が盛んになされていますが、理論的には自明でない興味深い問題を含んでおり、軌道自由度をもつ強相関電子系の新たな物性として注目されています。